HYPER TENSION
血圧が高い=すぐ薬を飲まなければならない、と考えている方も多いと思います。しかし、血圧は薬を飲むだけが治療ではありません。まず血圧が上がってしまっている原因を突き止めるところから始まります。それに応じて治療方針も変わりますが、いわゆる生活習慣病であれば食事や運動、睡眠、ストレス、喫煙、飲酒などの生活習慣の改善から始まり、それでも改善しないときに初めて降圧薬の内服になります。薬の説明ももちろん行いますが、当院では原因精査、生活習慣の改善などにも力を入れていますので、当院の治療の流れに沿って高血圧診療を解説します。
非常に重要な病気の一つです。
高血圧は非常にありふれた病気であり、日本国内に4300万人の患者がいると言われていますが、よほどのことでないと症状が出ないため、病気と認識されにくい面があります。高血圧は血圧が高い、というだけの病気ではなく、動脈硬化が進む病気です。脳や心臓、腎臓などすべての内臓は血管が張り巡らされており、動脈硬化が進む、ということは内臓に血がいかなくなる(≒栄養がいかなくなる)ということです。つまり、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全などのリスクになります。これらの病気は発症してからでは遅く、症状がないうちからしっかり予防しておかなければいけません。
高血圧はいわゆる『生活習慣病』として扱われることが多いですが、10%以上は『二次性高血圧』と言って、血圧が上がる原因が別にあることがあります(下記参照)。二次性高血圧を疑う所見があれば、すぐに大学病院などにご紹介いたします。睡眠時無呼吸症候群に関しては、当院ホームページに記載がありますので、ご参照ください。その他はいわゆる生活習慣病であることが多く、基本的には塩分制限の食事が大切になってきますが、それでも目標の血圧までいかないときには患者様の病気に即した降圧薬で治療していきます。
二次性高血圧の原因疾患(高血圧治療ガイドライン2019より一部編集)
二次性高血圧は積極的に疑っていかなければ診断を見逃してしまう可能性があります。血圧が高い=血圧の薬を飲む、のではなく、原因をしっかり突き止めてから、原因に応じた治療を行っていく事が重要です。
まず、血圧計は必ず腕で測るタイプを購入しましょう。手首の血圧計は、心臓の位置とずれることが多いため、血圧に誤差が出ると言われています。血圧が左右に差があるときは必ず主治医に報告しましょう。基本的にはどちらの腕で測っても問題ありませんが、透析している方や乳がんなどの手術をされた方はその主治医から血圧測定や採血などどちらの腕で行うか指定されていると思います。その指示に従いましょう。
私が高血圧の患者さんに説明するときは次の2回の測定を推奨しています。
1. 朝起きてトイレで排尿し、1-2分椅子に座って落ち着いた直後(食事をとったり外に出たりする前)
2. 夜寝る直前
これらの血圧を見ることで、高血圧のパターン(朝高いのか、夜高いのか、病院で測る血圧と比べて差はあるのか、など)も分類しながら治療にあたっていきます。
血圧の目標値は患者様それぞれ違います。やみくもに低ければいいものでもなく、かといって平均の血圧が130/80mmHgと140/90mmHgの人ではまったく合併症のリスクが変わってくるため、患者様に応じた目標の血圧を決めていく治療をご説明します。具体的には合併症の有無や今まで患った病気、年齢などで目標値は変わるため、状態に即した治療が必要になります。
血圧の治療は、二次性高血圧の場合はその原因(睡眠時無呼吸症候群やホルモン異常)への治療となりますが、いわゆる生活習慣病による高血圧(本態性高血圧)の場合は、一番基本となるのは塩分制限です。どんなに薬を飲んでも塩分制限ができなければ、十分な降圧が得られないことが多くなります。
塩分を摂取するとなぜ血圧があがるのでしょうか?塩分を摂ると喉が渇くことは皆さん経験があると思います。例えばラーメンを食べると非常に喉が渇きますよね?これは、塩分を摂ることで体の中の浸透圧というものがあがるため、これを薄めるために水分を欲するようになっています。結果として体の水分量が増えることになります。血圧というのは、動脈という血管の中の圧力を見ているものです。例えるのであれば、蛇口のついたホースのようなもので、ホースの先から勢いよく水を出す(≒圧力を高くする)ためには、蛇口をひねって水を多くだす(≒体の中の水分を多くする)か、ホースの先を細くする(≒動脈硬化が進む)か、のどちらかですね。これが原因で、塩分を摂ると血圧が上がってしまうことになります。
塩分は1日6g/日までと定められていますが、日本人の平均は10-12g/日程度摂取しているため、通常の食生活をしている方ではなかなか達成が難しいと言われています。また、自分で料理をしない方はもちろん、料理をする方でも実際6gというのがどれほどのものかはなかなか実感できないと思います。当院では少しでも塩分制限の治療に役立てるため、非常勤で管理栄養士が勤務しており、個別に栄養指導というものを行っております。1対1で説明してくれるため、患者様の生活に即した塩分制限の方法を色々と説明してくれますので、ご希望の方はぜひご受診ください。また、簡単にできる塩分制限の方法としては、ラーメンなどのスープは残す、お刺身を食べる時に裏表に醤油をつけることをやめる、とんかつなどをたべるときはソースを別皿にとってそれにつけて食べる、柑橘類などでの味付けを増やす、などがありますので、ご自身でできる塩分制限は積極的に取り入れていきましょう。
塩分制限が必要と言われても、そもそも自分の今の食生活でどれくらいの塩分を摂っているのか、制限しているつもりだがどれくらいできているのか、などは非常に気になるものですよね。どれくらい塩分摂取をしているのか、実際制限できているのか、など指標があったほうが頑張れるものです。
実は、外来で尿検査を行うだけで1日の推定の塩分摂取量を推測することができます。
もちろん完璧なものではありません。本来であれば、1日の全ての尿を集めて検査することがより正確であるため、入院して行ったりすることが通常です。しかし、外来ですべての尿を持ってきていただくことは通常難しいため、1回の尿検査で1日量を推定することになります。しかし、これを行うことで目安にはなるため、ご自身の塩分摂取量が気になる方や塩分制限をしているつもりだけれども血圧が下がらない方など、ご希望があればいつでも行うことが可能です。ご希望の方は、ぜひおっしゃってください。自分がどれだけ塩分を摂取しているか知るほうが、塩分制限に対する気持ちも上がる(≒高血圧への治療意欲も増す)はずです。
血圧治療は塩分制限以外にも多くの生活習慣が関わってきます。運動習慣や睡眠、喫煙歴や飲酒歴、ストレスなどです。このあたりのことを体系的に学べる高血圧治療アプリというものがあります。
どうしても食事や運動、睡眠、ストレスなど多くの生活習慣の影響を受ける高血圧治療は、生活習慣に関して口頭で説明するだけでは患者様にすべてを理解していただくことは難しかったのが実情です。そこで、私達医師が処方する『医薬品としてのアプリ』を使用することで、多くの知識を得ることができます。このアプリは高血圧ガイドラインに準じて作られているもので、患者様にも非常にわかりやすい内容になっており、治療の一環として有効と考えられます。
高血圧の治療の基本は何と言っても塩分制限を始めとした生活習慣の改善です。いくら血圧の薬を飲んでも、味の濃いものばかりを食べていては血圧は下がりません。例えば、私が病院勤務の際によく経験したのは、入院前は家庭血圧が140-150/80-90mmHgだった方が、骨折をしてしまい入院した、などのケースです。基本的に病院は患者様が入院する際に、その方に糖尿病や高血圧があるかどうかを見て、それに応じて食事をお出しすることになります。高血圧の方は塩分制限食になりますので、それだけで入院中は血圧が120-130/70-80mmHg程度まで下がることは本当によくあるケースです。それくらい塩分制限を始めとした生活習慣の改善は血圧に影響を与えるのです。
高血圧治療アプリの概要については動画を用意しておりますので、下記URLから確認を頂ければと思います。
このアプリは医薬品になりますので、無料というわけではありません。詳細は動画をご確認いただければと思いますが、おおむね3割負担で6か月間2500円/月程度の自己負担が発生します。アプリ自体は6か月間のものですが、そこで得た知識は一生涯高血圧治療に対して使用できるものであり、降圧薬がそもそも減らすことができれば将来的に患者様のコストダウンにもつながりますし、生活習慣の改善は多くの病気のリスクを減らします。ご興味がある方はぜひ当院をご受診ください。
降圧薬は多くの種類がありますが、まず大きく分けると5種類のものに分けられます。そのうちまず選ばれるのは3種類になりますが、その中でも使い分けがあります。年齢や体格はもちろん、基礎疾患の有無、薬の強さ、血圧が上がっている原因、内服の回数、作用時間、薬の副次的効果(血圧の薬の中には血圧を下げる以外の効果がある薬もあります)などですね。一概に血圧の薬といっても千差万別です。下記に簡単な概要を示しますが、薬の調節をしたい、今の薬が自分に合っているかを確認したい、などの方もぜひご受診ください。
Ca拮抗薬 | ARB / ACE 阻害薬 |
サイアザイド系 利尿薬 |
β遮断薬 | |
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左室肥大 | ● | ● | ||
左室駆出率の低下した心不全 | ● | ● | ● | ● |
頻脈 | ● (非ジヒドロピリジン系) |
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狭心症 | ● | ● | ||
心筋梗塞後 | ● | ● | ||
蛋白尿/微量アルブミン尿 を有する慢性腎臓病 |
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最後に、高血圧治療でよく患者様から聞かれる質問に対して記載させて頂きます。
やめられない患者さんが多いのは事実です。生活習慣病の高血圧は、やはり塩分制限、運動習慣、睡眠、ストレス、喫煙、飲酒、肥満、など多くの要素が関わってきます。生活習慣を改善しなければやめられない可能性が高いです。また、年齢が上がるにつれて、塩分の感受性もあがり、同じ塩分を摂っても高齢の方のほうが血圧が上昇するからです。しかし、私の患者様の中には血圧の薬を減らせている、もしくは投薬をやめることができた方がいるのも事実です。その患者様はやはり生活習慣の改善を達成できた方がほとんどで、それを行っていくことで血圧の改善につながるので、〇〇さんもこれから頑張っていきましょう。